写真展は楽しい

昨日、東京都写真美術館で、「木村伊兵衛アンリ・カルティエ=ブレッソン 東洋と西洋のまなざし」と、日本の新進作家展vol.8「出発-6人のアーティストによる旅」を見てきた。正月企画で無料公開されていたからか、木村・ブレッソン展は特に混雑していた。写真集もいいけど、写真展も楽しいなあ、写真集がCDなら写真展はコンサートみたいなもんだもんなあ、なんてことを思って存分に楽しんだので、見終えたらもうくたくただった。

木村伊兵衛アンリ・カルティエ=ブレッソン 東洋と西洋のまなざし

木村伊兵衛の作品は被写体になってる人物が今にも動き出しそうな躍動感が印象に残った。写真に動感を出したいときには、シャッタースピードを遅めにしてわざと被写体をぶらしたり、あるいは被写体に合わせてカメラを動かして背景を流したりするのが基本的なテクニックだと思うのだけど、ここにそういう写真はほとんどない。でも、顔や手足の表情をきちんととらえることでこの躍動感を出しているのでは、と感じた。
ブレッソンは、とにかく目に楽しい。写真を構成しているさまざまな被写体が生み出すリズム感が気持ちよい。見ていてニコニコしてしまう。
見どころは何といってもコンタクトシート。ネガを直接印画紙の上に並べてプリントしたもので、写真家がどんなことを考えながら作品を仕上げていったのか考えるのがおもしろい。まず、はっとした被写体をとりあえず画面全体に入れて撮ってみて、いま縦で撮ったから次は横に、横にしてみたら周りの風景も入ってきた、これなんかいいかも、もっと引いて広角で撮ってみよう……なんていうふうに。一回撮影して移動してから、あ、もっといい撮り方があったかも、と戻っていたり、一人の女性をずっと追いかけていたり。スナップ写真というと居合抜きのようにさっと撮っているイメージがあるけど、これという1枚を撮る前後でけっこう試行錯誤している。
どちらも歴史的な写真家なので作品自体は写真の本で何度も見ていたが、会場がわりと混んでいて列がなかなか進まないので、今回はいやおうなしに一枚一枚をじっくり見ることになって、会場を出たらすでに少し疲れが出てきた。

日本の新進作家展vol.8「出発-6人のアーティストによる旅」

入り口の尾仲浩二さんは、日本の地方を旅して、妙に記憶をくすぐる絶妙な色合いでプリントした作品。地方暮らしばかりしてきた僕には知っている気がする風景ばかり(実際に見たことがあるのは1ヶ所だけ)。もしかして同い年か、と思うぐらい(尾仲さんのほうが一周り以上歳上だけど)。思わず帰りに写真集『DRAGONFLY』買ってきた。
次に印象に残ったのは石川直樹さんの「Mt.Fuji」シリーズ。富士山なんて手あかのつきまくったテーマなのにとても新鮮。茶色の迫力ある山肌はまるで生物の肌を見るようで、つまり富士山が生きているかのような生々しい肌触りを感じる。頂上から下の町までのいろんな写真を富士山の形に並べた展示もまた迫力あり。こういうのは写真展ならではの楽しみ。
出口の内藤さゆりさんは写真集『4月25日橋』からの出品。もともと写真集を持っているのでどれも知っている作品なのだけど、さまざまな大きさに引き伸ばしてあって、また印象が違う。より作家の意図が伝わってくるよう。作品にはふさわしい大きさがあるんだなあと感じた。これもまた写真展に来ないとわからない感覚。特に写真集では最後の1枚になっている土の地面と轍の写真は、このくらいでっかいプリントで見せたかったのかあと、腑に落ちた。

高野秀行『西南シルクロードは密林に消える』

車内や待ち時間に読んだ高野秀行『西南シルクロードは密林に消える』(講談社文庫)がおもしろかった。なんで今まで文庫化されなかったのか不思議なくらいの傑作。中国南部からビルマを通ってインドへと至るかつての交易路を探す大冒険。登場人物がみんな奥深くて生き生きしていて、実に豊かな読み心地。高野さんなんでもちろん笑いどころたくさん。
森清さんの写真もいい。ご本人のサイトでそのときの写真が見られる。