文房具を語るということ−究極の文房具カタログ-マストアイテム編−

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http://www.bk1.co.jp/product/2639149
究極の文房具カタログ【マストアイテム編】
読んだ。文房具を語るということについて、一つのお手本になるような本。

文房具の魅力を知りはじめると、俳句を始めた人が些細な季節の変化に気がつくようになったり、「花」の一括りでとらえていた植物が多種多様であることを知り、そのたびに感動を覚えるのと似たようなことが起こり始める。身近にこんなに豊かでおもしろい世界があったのかと。

僕もつい一年前は「ボールペン」「シャーペン」「ノート」程度のくくりで捉えて、それ以上の区別は認識する発想はほとんどなかった。それがふと使いやすいノートを探し始めてモールスキンに出会ってからは、文房具の世界を見るレンズの解像度が上がったような思いだ。

それでも、まだまだ、なのだな。昨今の静かな文房具ブームの例に漏れず、僕も主に欧米の文房具を手に入れては喜んでいるのだけど、そのぶん、日本製の文房具に意識が向いていない。日本の文房具が嫌だってわけじゃなくて、デザインに注力したものや、ちょっと変わったモノが欲しいからなんだけど(あ、あと『イロブン』という世界もあるなあ。しかしこれだって、このサイトはずいぶん前から知っていたけど、昔と今では面白さの感じ方に凄く差がある)。

僕は本書を読んで蒙を啓かれた思いだ。扱っているのは、専門店に行かなくても、田舎のホームセンターでも買える本当に身近な製品がほとんどだけど、なにしろ的確なのだ。その文房具を使う利点を、「なんとなく」ではなく実に明確に説明してくれる。象徴的なのがぺんてるのサインペンについての記述。

文字でいえば、1〜2cm角の文字を書くのに最適で

筆記用具についての語り方もいろいろあるだろうけど、ここまで突きつめて用途を示す人もあまりいないと思う。著者が工学系だからだろうか。そういえばこんなフレーズも印象に残った。

万年筆ではそこに筆記のスピードが加わり、書いたときの状況を知る手がかりが、より多く含まれるようになる。そしてこれが毛筆になると、さらに、手の上下運動など、動きが三次元的に加わり

わかってもらえるだろうか。万年筆という道具の特質をなんと鋭く捉えていることか。そうかあ、スピードかあと仄かに感動したよ。もう一つ。

横書きの筆記体を多用する欧米の筆記具が求めるのが、滑らかな弧を描くスケートシューズだとすれば、漢字の多い日本語が求めるのはバスケットシューズだ。素早くダッシュしてキュッと止まり、方向転換してまた加速する。

見事な例え。例えといえば鋏についての記述では

切る紙ごとに、新雪や霜柱、芝生や枯れ葉などを踏みしめて歩くときに足の裏で感じるような

というのも巧いなあ。引用ばかりで恐縮だが、好きなフレーズなのでもう一つだけ。

私が神様ならシマウマの縞はやっぱりこのマッキーで描いたに違いない

どうでもいいことだが、モールスキンの、住所と拾ってくれた人へのお礼の金額を書く欄に記入しておいたおかげで、落としてもちゃんと戻ってきた、という話を実際に聞いたのはこれが初めて。しかも2回も(笑)。